人工呼吸器は、救急時、麻酔使用時、あるいは病室で空気または酸素を肺に送り込んで呼吸を助けるための医療機器です。世界初の人工呼吸器は、1838年、スコットランド医師ジョン・ダルジールらにより開発されたタンク式人工呼吸器(陰圧式人工呼吸器)です。構造は機械式でなく、密封できる箱型の呼吸器の中に患者を座らせ医師がポンプレバーを上下することで呼吸器本体の中を陰圧にし、患者の胸郭を広げ呼吸を補助する仕組みでした。
1929年には米国ハーバード大学の技術者であるフィリップ・ドリンカーらが通称「鉄の肺」と呼ばれる人工呼吸器を開発しました。これは鉄製の気密タンク内を電動で間歇的に陰圧調節する装置で、1930年代から1950年代にかけて世界的に流行したポリオによる呼吸不全を治療するために実用化され普及しました。
現在使用されている人工呼吸器のほとんどは陽圧式人工呼吸器ですが、陽圧式が開発されたきっかけもまたポリオの蔓延がもたらしたものでした。1952年、スウェーデン・コペンハーゲンを中心にポリオによる呼吸麻痺患者が多数発生し、その治療に新しく陽圧式人工呼吸法が開発されました。気管切開を行ってカニューレを挿管後、手動による調整が可能な従量式(ボリュームタイプ)人工呼吸器でした。これによってポリオによる死亡率を80%から25%に減少させることができました。