「消毒」とは人畜に対して有害な微生物、または目的とする対象微生物だけを殺滅することを指し、「滅菌」とは物質中の全ての微生物を殺滅または除去すること、つまり、増殖性を持つあらゆる微生物を完全に殺滅・除去することを指します。
医学の世界で最初に消毒・滅菌の概念が作られたのは1800年代後半のことでした。近代細菌学の祖と言われる2人の人物が競うように滅菌・消毒器の開発を行いました。1人がドイツの医師で細菌学者のロベルト・コッホ、もう1人はフランスの化学者パスツールです。コッホは最初、乾熱による滅菌を目指しましたが、芽胞に対する効果が低いことがわかり、その後、流通蒸気による滅菌を試みました。一方のパスツールは100℃の沸騰した熱湯の中で何時間でも生きている菌を発見し、滅菌を完全に行うには120℃の温度が必要と提唱しました。パスツールの弟子であるシャンベランが1880年に、現代の圧力鍋のような機構により槽内温度が120℃になる高圧蒸気滅菌器を世界で初めて発明しました。コッホが開発を進めた流通蒸気を使用した方法は、その後、1890年代にベルクマンによりベルリン大学に設置され、世界で初の実用型滅菌器として運用が開始されました。
ベルクマンの弟子であるシンメルブッシュは工程中に炭酸ナトリウムを添加した煮沸消毒器を発明し「シンメルブッシュ煮沸消毒器」と名付けられ、世界中で使用されるようになりました。シャンベランによって発明された高圧蒸気滅菌器は、その後、飽和蒸気・プレバキューム・二重缶構造を経て、1933年、米国のアンダーウッドによって現在のプレバキューム式滅菌器として完成されました。
医療現場で使用される世界で最初の低温滅菌は、酸化エチレンガスを利用した滅菌法でした。1937年、米国で酸化エチレンガス滅菌法のパテントが取得され、その後United States Chemical Corps (米国陸軍化学部隊)に所属するPhillips & Kayeにより1949年に酸化エチレンガスの滅菌理論(D値)を確立後、普及が始まりました。
欧米において開発されたこれらの滅菌法は、日本ではいわしや松本器械店(現・サクラグローバルホールディング)により1900年代初頭に蒸気消毒器の輸入販売を開始されたことから、日本での使用が始まりました。大正13年(1924年)、鵜殿工業所(現・ウドノ医機)は、日本初の滅菌装置製造メーカーとして創業し、陸軍に野戦病院用消毒装置の第1号を納入しました。
日本医療機器学会による書籍「滅菌保証のガイドライン2015」には、現在主流となっている滅菌法として、高圧蒸気滅菌、酸化エチレンガス(EOG)滅菌に、過酸化水素低温ガスプラズマ滅菌、過酸化水素ガス滅菌、低温蒸気ホルムアルデヒド(LTSF)滅菌を加えた5種類の滅菌法が掲載されています。