保育器は新生児および未熟児が、一般児とほぼ同程度に近い“抵抗力”を持つまで収容し補助育成する恒温恒湿装置です。最古の保育器は、サンクトペテルスブルグのリールが1835年に作った浴槽型保育器とされています。浴槽の壁が二重構造でその中にお湯を満たすことによって、未熟児を保温する仕組みです。現在の保育器の基礎となったものは、フランスのリオンが1891年に考案しました。孵卵器にヒントを得たもので、アルコールランプを熱源とするものでした。このリオン式保育器が明治34年(1901年)、初めて日本に輸入されました。東京大学小児科が購入したものです。これをもとに日本では様々な工夫改良を加えた国産品が製造されました。明治39年(1906年)には電気を熱源とする保育器が開発され、大正中期には炭団を熱源とする保育器が製造されました。
現在の保育器の原型となっている「閉鎖型保育器」のアイソレット型保育器は第二次大戦中の米国で開発され、1942年頃にはすでに量産されていました。これが昭和23年(1948年)、日本の愛育会に寄贈されました。これを契機に国内でも三立医科工業や千代田医理科器械(現・アトムメディカル)などが中心となって国産の保育器の開発が始まりました。なかでも、エポックメイキングとなったのが松原与四郎氏率いる千代田医理科器械の「N-52アトム保育器」でした。国産初の“近代的保育器”と呼ばれ、これがきっかけで国産の保育器の開発の機運が盛り上がりました。