重症の心不全の治療のために、心臓機能の代行としてポンプを用いるアイデアは古くからありました。埋め込み型人工心臓の発想の原点となるものです。これが話題となったのは1935年、大西洋横断の英雄リンドバーグが心臓外科医カレルに依頼して始められた研究です。カレルが作製した人工心臓は翌1936年の国際会議に展示されましたが、溶血などの問題が解決できずに研究は継続されませんでした。
その後も米国と日本を中心に地道な研究が続けられました。研究には阿久津哲三、渥美和彦、能勢之彦などを始めとした多くの日本人医師の研究活動が大きく貢献しました。阿久津哲造氏は米国クリーブランドクリニックにおいて人工心臓の開発に取り組み、1958年に世界で初めて埋め込み型人工心臓を開発しました。
1969年、空気駆動装置とサック型人工心臓を組み合わせた完全置換型のリオッタ型人工心臓を、クーリーとノーマンという米国の2人の医師が臨床応用しました。1981年にはクーリー医師が阿久津型の完全置換型人工心臓の埋め込みに成功しました。この頃から成功率が向上し、7年を超える長期生存も見られるようになりました。現在は、動力源を内蔵した超小型の完全置換型人工心臓が開発され、多くの患者に使用されています。